経済のグローバル化がますます加速する中で、アジア・アフリカおよび南太平洋の後発開発途上国、開発途上国、新興国などの経済的格差の拡大と貧困層の生活の困難は、解決の兆しを見せていません。今後の経済成長が貧困層の福利の増大と格差の縮小をもたらす保証はなく、さらなる悪化が危惧されます。現在、世界の20億人が一日1.9ドル以下で生活する貧困層に属しています。世界的には貧困層の割合は減少しつつありますが、特に後発開発途上国においては、貧困層は今後さらに増加すると予想されています。持続可能な開発目標には、その目標の1つに「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」ことが掲げられており、中でも1日1.25ドル未満で生活する極度の貧困(絶対的貧困)を根絶することが、喫緊の国際的な課題です。そのためには、絶対的貧困層が今後も拡大すると予想されている後発開発途上国を中心に、貧困の緩和と社会的格差の縮小を実現するための、革新的な社会的仕組みや技術を創出することが必要です。
貧困層に代表される社会的弱者は、就業や経済活動の制約を強く受けることから、農林水産業を通じた自然資源の利用を主たる生業とし自然資源に強く依存した生活を送ることが多く、これまでも自然資源の持続可能な利用を通じた社会的弱者の福利向上に向けた取り組みが、行政や民間組織によってさまざまな形で実施されてきました。それらは一般に、援助機関や行政、研究者が課題を特定し、制度や仕組みの設計実装を試みるというトップダウンの構造をもっています。彼らが現実の生活において直面する課題、課題解決を妨げる要因、内面から沸き起こる独創的な意欲やしくみに光が当てられることが極めて少ない状況です。
行政や民間組織によるサービスが十分に行き届かない社会的弱者の福利を、貧困層が強く依存する自然資源の持続可能かつ効果的な活用を通じてサポートする仕組みを作るために、知識・技術の共創を促す新しいトランスディシプリナリー研究(TD研究)が必要とされています。具体的には、彼らが生活の中で直面する自然資源の持続可能な利用における課題とその解決にかかわる研究の協働設計(Co-design)、課題の解決に向けた知識、実現可能な社会の仕組みや技術(ツール)の協働生産(Co-production)、これらのプロセスに関与するステークホルダーと協働した研究成果の実装と実践(Dissemination)により、科学的に妥当であるだけでなく社会的妥当性を持ち、弱者自身によって生活の現場で実現可能で効果的な解決策を生産できる科学が求められています。
困難な状況に適用できるTD研究手法を構築し、その成果を活用していくことによって、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる貧困解消という国際的な課題に貢献できます。そのために、フューチャーアースのSeeds of Good Anthropocenesやドイツの高等持続可能性研究所が進めるKnowledge, Learning and Societal Change Alliance(KLASICA)との連携、産業セクターとの協働、地域社会における知識の協働生産を担う人材の育成などを進めます。
研究者個人だけでなく、また特定の学術領域の研究者だけでもなく、社会とさまざまな学術領域が相互に関わり合う連携による研究。